あのとき、あの味

「食」がある風景を描くエッセイ

2019-01-01から1年間の記事一覧

何も知らない

どうも、遅くなりました。今日は遠くまでお越しいただきありがとうございます。何もないところで恥ずかしい限りです。道中、タクシーの中でひたすら反芻したフレーズを実家近くの割烹の個室に入るなり一息で吐き出す。婚約者とその両親が挨拶にやってくる。…

期待を後にして

出張の前入りでやってきた街で散歩途中古い商店街を見つけた。あいにくその時はシャッターを閉ざしている店が多かったが昔懐かしの和菓子屋さん、お好み焼き屋さん、電気屋さん、ちょっといかがわしいお店。それぞれが、昔からそこにある店特有の時間の凝縮…

故郷の春の味

自分が当たり前だと思っていた物事が自身が生まれた地域限定の習慣であったことを知るということは多々ある。特に食べ物については故郷を離れた途端に目にしなくなったり友人に話しても「は?」という顔をされたりでそのことを知らされることが多い。私にと…

ゆでたまご 尊いまるみ

バターを塗ったトースト、レタスときゅうりとスイートコーンのミニサラダ、そしてゆでたまご。いつも立ち寄る喫茶店の、決まったモーニングで私の朝は始まる。ゆでたまごを皿の縁に軽く打ち付け、殻を剥き始めると、一緒に白身がべろりと削げた。注意して剥…

花金と女

金曜日。一週間走りきった多くのサラリーマンが、明日は休み!という高揚感とともにゴールテープを切る日だ。さらに、給料日が重なると、誰も褒めてくれない代わりに「お疲れさま、自分!」感が増す。給料日の夜は外食をすると決めている。今月は寿司とビー…

すき焼き風ねぎ

正月休みの最後の土日。一足早く、自分の住む場所へ戻ってきた。いつまでも実家にいると、週明けの仕事モードに身体が戸惑うから。それにしても、途端に寒い。ビジネスホテルのシングルルームのように生活感がない、私の生活拠点。掃除が苦手なので物を増や…

一富士二鷹、三甘味

必要なものの買い出しは、大晦日の昨日、お昼までに済ませた。元旦は外出はせず、家でゆっくり過ごしたい。そう思っていたが、昼食が済んでしばらくすると、甘いものが食べたくなった。母に何かないか尋ねてみると、じゃあ栗蒸し羊かんでも買いに行こうとい…