あのとき、あの味

「食」がある風景を描くエッセイ

すき焼き風ねぎ

正月休みの最後の土日。

一足早く、自分の住む場所へ戻ってきた。いつまでも実家にいると、週明けの仕事モードに身体が戸惑うから。


それにしても、途端に寒い。

ビジネスホテルのシングルルームのように生活感がない、私の生活拠点。

掃除が苦手なので

物を増やさないようにしていることが、

こういうときにとても身に染みるのだ。


暖房のスイッチを入れ、テレビを点ける。

騒がしい正月番組とすぐ近くの交差点を行き交う車の音が、ごちゃ混ぜになって耳をざわつかせる。


母が持たせてくれた紙袋を開ける。

正月にみんなで食べたおせちの残りや缶ビール、母が作った松前漬け。ひたすら食べて寝た正月の余韻が詰まった福袋みたいだ。


中でも目玉はこのすき焼き風ねぎ。


すき焼きではなく、“すき焼き風”ねぎ。

牛肉が高いので、その代わりにねぎでカサ増しをした、母のオリジナル料理だ。とろとろに煮えたねぎが堪まらない。侘しい料理と言いたい人には言わせておけば良い。


早速、耐熱容器に移し、レンジへ。ブーンという無機質な電子音とともに、醤油と砂糖の甘辛い香りが立ち込める。この香り!作りたてより味が染みているから、ご飯が進んでしまう。もう夜遅いのに、困ったものだ。


炊きたての白いご飯と並んだすき焼き風ねぎのお陰で、殺風景な部屋に正月過ごしたあたたかい時間がほんわりと戻る。


もう一回分くらいの量が残ったから、明日は冷蔵庫の冷凍うどんで鍋焼き風にしよう。卵を最後に乗せたら堪らないだろうな。


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