あのとき、あの味

「食」がある風景を描くエッセイ

何も知らない

どうも、遅くなりました。今日は遠くまでお越しいただきありがとうございます。何もないところで恥ずかしい限りです。道中、タクシーの中でひたすら反芻したフレーズを実家近くの割烹の個室に入るなり一息で吐き出す。婚約者とその両親が挨拶にやってくる。…

期待を後にして

出張の前入りでやってきた街で散歩途中古い商店街を見つけた。あいにくその時はシャッターを閉ざしている店が多かったが昔懐かしの和菓子屋さん、お好み焼き屋さん、電気屋さん、ちょっといかがわしいお店。それぞれが、昔からそこにある店特有の時間の凝縮…

故郷の春の味

自分が当たり前だと思っていた物事が自身が生まれた地域限定の習慣であったことを知るということは多々ある。特に食べ物については故郷を離れた途端に目にしなくなったり友人に話しても「は?」という顔をされたりでそのことを知らされることが多い。私にと…

ゆでたまご 尊いまるみ

バターを塗ったトースト、レタスときゅうりとスイートコーンのミニサラダ、そしてゆでたまご。いつも立ち寄る喫茶店の、決まったモーニングで私の朝は始まる。ゆでたまごを皿の縁に軽く打ち付け、殻を剥き始めると、一緒に白身がべろりと削げた。注意して剥…

花金と女

金曜日。一週間走りきった多くのサラリーマンが、明日は休み!という高揚感とともにゴールテープを切る日だ。さらに、給料日が重なると、誰も褒めてくれない代わりに「お疲れさま、自分!」感が増す。給料日の夜は外食をすると決めている。今月は寿司とビー…

すき焼き風ねぎ

正月休みの最後の土日。一足早く、自分の住む場所へ戻ってきた。いつまでも実家にいると、週明けの仕事モードに身体が戸惑うから。それにしても、途端に寒い。ビジネスホテルのシングルルームのように生活感がない、私の生活拠点。掃除が苦手なので物を増や…

一富士二鷹、三甘味

必要なものの買い出しは、大晦日の昨日、お昼までに済ませた。元旦は外出はせず、家でゆっくり過ごしたい。そう思っていたが、昼食が済んでしばらくすると、甘いものが食べたくなった。母に何かないか尋ねてみると、じゃあ栗蒸し羊かんでも買いに行こうとい…

タイムスリップ・ココア

世の中の大半が仕事納めをしたであろうに積み残しがあり渋谷で仕事だ。0.5日分、後ろ倒しになった仕事納めだったが帰り道、近くを通ったので久しぶりに立ち寄ろうと思う場所があった。名曲喫茶ライオン。道玄坂の途中、華やかな街の雰囲気の中に隠れてラブホ…

うちでカフェれる、良い時代

連休の中日、ハロウィン直後から始まったクリスマス商戦もいよいよ大詰め、すぐに年末だ。きらめくイルミネーションが余計に街と人の高揚感を煽る。人の数もいつもの1.5倍くらいに思えて深呼吸しなければ到底溶け込めそうにない気がしてしまう。自分とその周…

カップのフチ夫くん?

週に二回、出勤前に立ち寄るスペシャリテイコーヒー店では、注文した一杯を飲むカップを選ぶことができる。カウンターの棚に陳列された様々な柄、色を配したカップ。スマートなフォルムの洋風陶器、ごつごつ、ぽってりとした日本の焼き物、いろんな表情のカ…

エア居酒屋で、朝食を

30代にもなると、学生時代の友人と定期的に会う機会は貴重だ。普段被っている、仕事人間という殻を破り、胸いっぱいに息を吸って会話ができる感覚は、最近減っているような気がする。3ヶ月に一度くらいは会う友人で、今回は表参道で朝食を取ることにした…

母のにんじんサンド

取れずじまいだった夏休みの休暇。実家で過ごす最終日、母がアルバイトをしているパン屋に久しぶりに立ち寄ることにした。母を入れて3人で回している小さなパン屋。週に3日しか開かない。開店日は、この街にはここにしかパン屋がないのだろうかというくら…

朝のあんぱん

今朝は、いつもより早く出社した。昨晩、担当しているイベントの運営に関する打ち合わせで上司と考えが合わず、そこから話が進まなかったのだ。言葉少なく、表情がないためにとても冷たい印象の上司、長尾さんは、社内で最も仕事ができる人物だ。私は、思っ…

ご褒ビチェリン

思ったより残業が短く済んだ週末。月末で繁忙も一区切り、帰宅前に一息つこうと駅前に出来たイタリアの老舗カフェ「ビチェリン」に立ち寄った。それなりの高級店だという前情報があったため、普段着のチュニックなどで行ってはいけないと考えていて、職場帰…