あのとき、あの味

「食」がある風景を描くエッセイ

カップのフチ夫くん?

週に二回、出勤前に立ち寄るスペシャリテコーヒー店では、
注文した一杯を飲むカップを選ぶことができる。
カウンターの棚に陳列された
様々な柄、色を配したカップ
スマートなフォルムの洋風陶器、
ごつごつ、ぽってりとした日本の焼き物、
いろんな表情のカップ
図書館の本棚のように壁を飾っている。

私には、コーヒーにもカップにも
“いつもの”がある。
コーヒーはその日のおすすめ、
カップはガラスの透かしが入った
有田焼のものだ。
白地に、細かな丸い透かしが入り
洋風食器に見えるが、
縁に描かれた青い線が
有名な浮世絵の、海の水しぶきのようで
妙に日本風。違和感のない折衷具合なのだ。
あいにく、私の“いつもの”は、
一足早くモーニングを食べている
白髪のご近所マダムの元にある。
勝手に浮気をされた気分だ。

仕方なしに、棚の中で
私から一番離れたところにあるカップ
ろくに選びもせずに指差しだけで選んだ。

数分後、酸味のあるニカラグアの香りを運んできたのは、
ゆるキャラ付きの憎めないやつ。
身体をくねらせた少年が取手となり
やっこさんと番傘が描かれている。
コーヒーを口に運ぶたびに
ソーサーのやっことさんと、
幼稚園で作ったてるてる坊主のような表情をした
取手の少年と目が合う。

やっこさんと番傘は
同じテイストでしっくりくるが
この少年は何だ?

フチ子さんならぬ
フチ夫くんがくねくねそろりと
フチから降りて
取手になっちゃったのかね。

筆でそろそろと描かれた顔のパーツは
絶妙なアルカイックスマイルで
どちらかと言えば苦手なニカラグアの酸味が
いつもより和らいでいる気がした。

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